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「都季。着物を着なさい。
風邪を引きますよ」
医者は長衣を羽織ると、都季の傍らに膝を立てて座った。
部屋の隅では、鉄瓶が蒸気を立てている。
都季は黙ったまま、医者の膝に頭を乗せた。
「どうしましたか」
素知らぬ顔で訊いたが、都季が両親のことを思っているのは分かっていた。
しかし、都季は体を張ってまで何かを頼もうとしているのだ。厄介な問題であることは確かであろう。
都季の頭を優しく撫でた。
まるで、膝上の猫を撫でるような自然な行動だった。
「先生」
都季が半身を起こした。
「先生は薬剤の買いつけなんかで自由にここを出入りしてるんですよね」
この言葉だけで、何を考えているのか全て読めた。
「今度、買いつけに行くとき、私も一緒に連れてい……」
「駄目です」
最後まで聞かずに答えたからであろう。
都季は面白くない顔をした。
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