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おそらく、考えてみたが納得する結論に至らなかったと見える。
「先生、私は死ぬまで先生の事を好きになれそうにありません」
都季は、本音とも言える負け惜しみを口にした。
この言葉に心が痛まないのは、医者自身がそのような都季を望まないからである。
女に惚れられることは幾度もあった。
ある時は、若い後家だった。
ある時は、散々価値のないものを貢いできた挙げ句、縁を切りたいなら今までの金を返せと暴れた娼妓だった。
ある時は、頼んでもいないのに毎日飯を炊きにくる身勝手な娘だった。
どの女も心から愛そうと努力したが、皆、医者が愛する前に去っていった。
「私も都季に慕われては困ります。ですが、死んでからなら慕っていただいても構いませんよ」
「な、何を……。帰ります!」
急ぎ着物を羽織った都季は、廊下に出ると強く襖を閉めた。
遠ざかっていく足音に、苛立ちが現れている。
分かりやすい――。
医者は、ひとり微笑んだ。
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