第9話

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この日、雪美館で初見世が行われるという風聞はたちまちのうちに拡がり、娼家前の露地は都季を一目見ようと訪れた男で溢れていた。 初見世とは、新妓が初めて公の場に顔を見せる儀式である。 見世娘以下の娼妓でも、見世娘しか座れぬ格子の前で、十日間、己を売り込むことが出来る。 この日も、都季が座ることとなる控え間の中央には、厚みのある唐紅の座蒲団が二重に積まれていた。 これは座したときの新妓の背丈を、他より高くすることで新妓を目立たせる計らいであり、その少し後ろで座すこととなる毬子らは薄い座蒲団一枚である。 開店前になると、毬子、玉代、菖蒲、六花は各々の場所に座った。 格子前に集まった客から「初見世の娼妓はまだか」という野次が飛んでくる。 毬子は、空席の座蒲団を見てほくそ笑んだ。 初見世に集まる客の殆んどは、素見し(冷やかし)に訪れる者が多いのだ。 何故なら、祭りと化した初見世では、登楼しようがしまいが訪れた客には上酒が振る舞われる。
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