第9話

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軒下にうずたかく積まれた菰樽(こもだる)から下男が柄杓で酒をすくい、升でそれを飲ませるのだ。 ただ酒を目当てに訪れる者は、何かとけちをつければ騒ぎを避けたい見世側から酒が存分に振る舞われることを知っている。 毬子の胸は昂揚としていた。 このまま客が騒ぎ続ければ、都季に娼妓としての先は無い。 騒げ。もっと騒げ――。 客からの野次が、これほど愉快に感じたのは初めてだった。 わだかまっていた不満がこれでやっと晴れるのだと思うと、心が勇み立ち手が震えた。 三年も、胸のつかえが取れなかったのだ。そのつかえの原因は、前代未聞の下女が受験した見世娘試験である。 あのとき、結果は最後の最後で毬子が見世娘を勝ち取ったが、それまでの判定は下女より下だった。 素直に喜べなかった。 実力の成果だとは思えなかった。 見世娘になれて良かったわね、と祝ってくれる周りの言葉は、運が良かったわね、と言われている気さえした。
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