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「伽羅のところに甘味処が出来たんだって。今度、おつかいのついでに行ってみない?」
「甘味処って、いつ出来たの」
「ああ、行きたいけど今月は多めに仕送りしなきゃ……。弟が風邪を引いたって……」
いつにも増して彼女らが多弁であるのは、この日が給金日だからである。
今しがた、上級女と入れ替わりで見世娘が内証に入ったばかりであった。
「座れ」
家長は鷹のような目で見世娘らに着座を促した。
床の間を背負った家長は、文机に拳を乗せている。
毬子から順に端座した見世娘は、都季を最後で家長と向き合うと、形式的に低頭した。
都季の礼には自信がみなぎっている。
床に手をついたときの伸びた指先や、ゆるりと倒した体の動き一つ一つから、溢れてやまぬ活力が滲み出ているようである。
それに反して、毬子、玉代、菖蒲、六花の礼には、どこか芯がない。
心ここに在らずで、目が游いでいる。
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