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「私の言わんとすることが分かっているか」
家長は腹から響かせた重い声を発した。
たちまち毬子らの顔が蒼白くなった。
「怒っているのではない。ただ不思議でな……。
都季の売上高がお前達を抜いたことはさておくとしても、だ。
四人が揃って売り上げを落とすとは、いかなる理由か」
毬子が都季を一瞥した。
口惜しそうに、歯噛みしている。
都季の初見世から一月が過ぎていた。
あの日から、都季は毬子らを追い抜くことに心血を注いできたのだ。
一度取った客のことは、酒や肴の好み、はたまた交わした会話の内容まで、決して忘れぬよう記録した。
同衾(どうきん)の際は、毬子に打たれた傷がわざと見えるよう寝そべった。傷の原因を客に訊かれると「私が悪いのです」と答えた。決して毬子らの悪口(あっこう)は言わなかった。
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