第9話

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「都季は……、私達の客を奪ったのです」 毬子は堪えきれない様子で声を張った。 「客を奪った?」 復唱した家長の目が、文机から毬子に移った。 「そうです」 「そうです、家長様」 「私の客も都季に盗られました」 答えたのは、玉代、菖蒲、六花であった。 三人とも、こぞって膝を乗り出している。 窓の向こうから聞こえる秋霖(しゅうりん)の音が、しばし耳についた。 「都季、まことか」 「まことかと訊かれましても……、私は指名してくださったお客様の敵娼(あいかた)を務めただけにございますれば、盗った盗られたの話は存じません」 「ならば、密通の覚えは」 「ございません。これまで皆様を指名していたお客様が私を指名しただけのことでございます」
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