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都季は床を見つめて慎ましく答えた。しかし、その言葉の端々から、荒らさと、ゆとりの無さが、微かに感じられる。
今の言葉は家長への返答であったが、毬子らに聞かせる為でもあったからだ。
「どういうことだ」
家長の鋭利な眼光が、毬子らをねめつけた。
ここに来てようやく失言を吐いてしまったと悟ったらしい。
毬子らは途端に顔色を変えて平伏した。
「正規の手筈を踏んだ客を、奪われたと申すか」
家長の拳が、文机に落ちた。
あまりの勢いに、床から衝撃が伝わってきたほどだ。
「揃って得意客を手離すなど、お前らがぬるいのだ。都季を見倣え!」
家長の恫喝は、都季にとって大いに溜飲(りゅういん)が下がるものであった。
事実、都季はこの僅か一月で、一番の見世娘と認めざるを得ないまでに成長していた。
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