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誰かに要らぬことを言われたか、という考えが直ちに都季の脳裏をよぎったが、しかし鷹尾がそれを鵜呑みにしたならば、都季と鷹尾の間には信頼関係が築けていなかったことになる。
都季は、鷹尾との間に見えぬ壁があるのを感じた。
「だけどさ、ちょっとばかり気になることがあるんだよねえ」
紅をさしながら、ハナエが呟いた。
「何がですか」
「東町薬店の若旦那だよ。
都季が出ていった頃から娼家に通ってくるようになったんだけどさ、何度か毬子を指名してたんだよねえ。
何か企んでるんじゃないかってさ――」
「何かとは」
「だから贔屓にする娼妓を選ぶなんて言ってるけど、端から毬子を選ぶつもりとかさ。
毬子はあんたを嫌ってるし、あんたとの勝負に勝ったんだって皆に思われたいだろ」
「そう言われてみれば――」
確かにあり得る話である。
しかし、はたして毬子はそれで満足するのかと考えると首をひねってしまう。
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