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これは、いよいよ不味いと思った。
このまま去れば、そしらぬ顔で入札に挑めると思ったが、そうはさせてくれぬらしい。逃げ帰る者は五商団に選ぶ価値なし、ということであろう。
「ひとつ訊くが、誰か帰った者はいるか」
「はい。南町商と南下町商、それに北中町――」
どうやら少なくはないらしい。
帳面に指を滑らせたときの動きから察するに、まだまだ名が出そうである。
「いや、もういい。それを見せてくれ」
書記から帳面を受けとると、偉進は首を傾げた。
「何故、商団名の下に金額が書いてあるのだ」
「領府様といつ謁見できるか分からぬからです」
偉進が意を判じかねた顔を見せると、書記は続けて口を開いた。
「さる年、三日間待ち続けた商団が、はした金と決めつけ黙殺されるとは、とお怒りになり、持参金を置いていかれたのです。
それにならい、昨今は額を記し持参金を置いて直ちに帰られる商団ばかりでございます。いま待機部屋で座っておられる方はそれを知らぬ商団でしょう」
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