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「ほら、早くやりな」
座長に尻を叩かれ渋々足を踏み出すと、なぜか都季と同じく団扇を手にした偉進が、既に竈の前でしゃがんでいた。
「おい、都季。早く来いよ」
興味があるのか、偉進の顔は愉しげである。
都季の心は置いてきぼりをくらった気持ちで、直ぐにはついていけなかったが、もしや謝礼の意味で飯炊きを手伝えということかと思うことにして偉進の隣にしゃがんだ。
火おこしが終われば修練を始めるのであろう――。
ならば、さっさと終わらせねばならない。
都季は気を取り直し、火種の藁の火を団扇で扇いだ。
しかし、火種から小枝へ、小枝から薪へ、と順序よく火が移れば竈の火は燃え盛ってくれるのだが、思うように火がおこらない。
急ぎ終わらせねばと目一杯の力で団扇を扇いでみたが、それは腕が疲れるばかりで持続せず、とうとう手を休めてしまった。
「もう疲れたのか。また火が消えたぞ」
手を休めるなと言わんばかりに、偉進が竈を団扇で指している。
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