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「言われずとも分かっています」
また馬鹿にされた気がして、都季は額の汗をぬぐうと火おこしを再開した。
しかし、その動きはもはや無責任である。
「あんた、火をおこしたことがないのか」
偉進が都季の顔を覗きこんだ。
表現が豊か、と言えばよく聞こえるが、目をむき出した顔は大袈裟すぎる。悪く言えば、わざとらしい。
都季は目の端で偉進を睨むと、ふくれた顔のまま団扇を扇いだ。
「シンさんはあるのですか」
「あるに決まってるだろう。
薬商をやってるんだ。たまに薬を煎じるからな」
どれ、と発した偉進が、都季に場所の交代を手で告げた。
手本を見せてやる、ということであろう。
都季はしゃがんだまま場所をゆずった。
「薬を煎じる?
大店の跡継ぎなんて可愛がられて育つでしょうに、それは騙されませんよ」
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