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「しかし、あれだな。
火はついたが、そろそろ帰らんと未の刻までに戻れんな」
偉進が立ち上がり耳を澄ました。
午の刻を告げる鐘声が遠くで響いている。
都季は、給仕長に外出の由を訊ねられた際、街の医院で足を診てもらうと答えたのだ。皆と同じく、給仕長も都季の仮病を見抜いていた筈だが、給仕長はそれ以上訊かず「未の刻までに戻りなさい」と言ってくれた。刻限は守らねばならない。
後ろ髪を引かれる思いではあったが、都季はしょうことなしに帰路についた。
***
「その許可証は、しばしあんたに貸すが、明日からはどうする」
偉進が気にしたのは刻限のことである。
今日のような短時間では、ただでさえ一座の滞在期間には限りがあるのに、修練どころではない。
「今日のことを家長様にすべて話して、夕刻からの外出を許していただけるよう頼んでみます。毎日外出するにはその方がよいかと――」
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