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偉進は迷わず、行くと答えた。
用意したのは天印金百両なのだ。そこそこ大きい屋敷を建てられる額である。
自信があった。
たかが納品権のためにかような金額を出すとは、領府も腰を抜かすであろうと思っていた。
しかし、待機部屋の空いたところに腰を落ち着けたとき、冷や汗が滲み出た。
円を囲んだ商人らの話し声が聞こえてきたのだ。彼等は西町商の商団であった。
「三百あれば申し分ないのか」
「いや判らぬ。西中町商は五百を持してくるやも知れぬ」
「何。それがまことならば前年の五商団に何故西中が入っておらぬのだ。西中は前年もここを訪れたのであろう」
「前年の持参金では選ばれなんだ故に、今年は五百を用意したのでは」
「では、三百では話にならぬということか」
眉間に皺を刻んで黙りこくった西町の商団と同じく、偉進の眉間にも深い皺が寄った。
彼等の話がまことならば、百両しか持しておらぬ偉進には端から勝ち目のない戦いである。
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