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雪美館の露地に、てんてんと釣り灯籠の明かりが浮かんでいる。
「毬子の奴――。自分が主役にでもなったつもりかよ」
都季の後ろを歩いていたハナエが、都季の前方を顎で指した。
ハナエの後ろに続いていた娼妓らも、それに気付いたのか口々に不穏な囁きを洩らしている。
都季は今日、手持ちの中で最も値の張る着物を身につけた。これは松若旦那から天印金一両をいただいたときにしつらえたもので、赤地に蝶の金刺繍が施された着物は誰の目にもとまる豪華絢爛なものである。
酌娘として同伴が決まった娼妓らは、本日の主役となる都季を更に際立たせるため、淡色の着物を着用していた。
これは決められたことではないが、同伴者が身の程をわきまえるのは一つの礼儀である。
「都季より刺繍が多いぞ。珊瑚もでかいし」
ハナエが不機嫌にぼやいた。
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