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毬子の着物は生地こそは淡色の桃色であるが、それに縫い表された唐草模様は全て金糸が使われており、髪飾りの珊瑚も一目で高価だと分かる大玉であったのだ。
「おい、都季――は持ってないよな。誰か、あれより高価な髪飾りを持ってないか? 持ってるなら都季に貸してやっておくれよ」
ハナエは皆に訊いたが、ただの娼妓と見世娘では、その収入に雲泥の差がある。皆が持っておらぬことは端から承知の上である。
やはり、娼妓らは首を横に振った。
「ハナエさん。もういいです。衣装では敗けましたが、今日の宴席はシンさんの主催です。毬子が上座に行くことはありませんから」
都季がそう言ったとき、前方を歩いていた毬子が足を止めて振り返った。
その顔は、自信に満ちた表情でほくそ笑んでいる。
「なんだい毬子の奴」
ハナエが毬子をねめつけた。
しかし、毬子に漂う自信の色は、いささかも揺らぐことはなかった。
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