第14話

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客は壁沿いに並べられた両極の席につき、対座している。 ひらけた中央の奥が一段高い席となっており、偉進は三つ並んだ膳に向かい胡坐している。 客の目が、金刺繍の着物を着た都季と毬子の双方に向いた。 みな、偉進が贔屓にする女子はどちらかと関心を寄せているのである。 「おい。酒がないぞ」 偉進が都季に酒杯を見せた。 みなの目が確信の色に変わったのを感じつつ、都季は頭を下げた。 「失礼いたしました」 都季は深く息を吐き、静寂な心で歩みを進めた。 折しも、毬子が松若旦那の姿を見つけた。 「若旦那様。何故かような下座の席に――」 松若旦那は苦虫を噛み潰したように眉間に皺を刻んでいる。 都季は偉進に目礼し、その傍らに座した。
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