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しばらく経ち、ようやくシノが料理を運んできた。
「天豆と芋の焼きです」
茹でた天豆と馬鈴薯に柚子味噌を塗り、網で焼いたものである。
焦げた味噌の香ばしい香りと、口に入れたときの仄かな柚子の香りが天豆の青くささを消し、芋の甘さを引き立てている。しかし、この“天豆と芋の焼き”は現料理長が考案したもので、昼餉や夕餉にたびたび出されているものだ。
この味に慣れている者にとっては新鮮味が感じられない。
むろん、これを食した上級女らの顔色は好ましくなく、また下女が余り物を運んできても、宗加のときのように試食に群がる娼妓は一人もいなかった。
そこで狼狽えたのは、余り物を運んできた下女であった。
シノは次に出す料理を支度するため調理場へ一足先に戻ったが、手つかずの大鉢を持って調理場へ戻れば、皆の評価がシノにも宗加にも伝わってしまう。
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