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妙児は先ほどの宗加の料理は試食しなかったが、誰も食してやらぬのは哀れかと思い、落胆しつつ料理をさげた下女を廊下で呼び止めた。
「待ちなさい。それを一皿盛ってちょうだい」
下女が手にしている盆の上には、大鉢の傍らに味きき皿が十枚ほど重ねて置いてある。
「え……、妙児さんが食されるのですか」
「それが何か」
言ったとき、反対側の廊下から都季が歩いてきたのに気付いた。
都季の後ろを、部屋つきのセツが歩いている。
折しも、食房からハナエが顔を出した。
「ああ、都季。やっと来たか! もう料理は一品ずつ出ちまったよ」
大方、ハナエが都季を呼びにセツを遣わしたのであろう。今やって来たばかりの都季は、ハナエにこれまでの料理勝負の経緯を訊いている。
「妙児さん。どうぞ」
廊下に大鉢の乗った盆を置き、味きき皿へ“天豆と芋の焼き”を僅かに盛りつけた下女が、それを差し出した。
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