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「ああ、これだよ。お団子頭の下女が作ったやつ。誰も食べなくてさ――って、食べるのかい」
ハナエが都季に教えつつ大鉢を指差した。
最後の言葉は、妙児への問いかけである。
「味付けや調理法に工夫が無くとも、これはシノが皆に食していただく為に調理したものです。その心を無駄には出来ぬでしょう」
杉の廊下に端坐して味きき皿を受けとると「私もいただくわ」と都季が隣に静坐した。
下女の顔に喜色がさしている。
一人や二人試食したところで大鉢の料理はいかほども減らないが、誰も食さぬことを思うと心はいくらか軽くなったのであろう。
妙児もまた、傲慢になりやしないかと案じていた都季のあたたかな心根を知り、穏やかな気持ちになった。
「あ、ハナエさんとセツさんも試食しようよ」
「そうさねぇ」
「でも、私は――」
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