141人が本棚に入れています
本棚に追加
ハナエは素直に頷いたが、セツは困惑して苦笑した。
おそらく、下女の身分で娼妓が試食するための料理をいただくのはおこがましいと思っているのであろう。真面目一徹なセツらしい。
「冷めると風味が損なわれますから、温かいうちにいただいてあげなさい」
妙児が言ってやるとセツは安堵して頷き、更に他の部屋付きにも勧めてよいかとおそるおそる訊ねてきた。
ひとり特恵を受けるのも気が引けたのだと思われたため、妙児はこれにも頷いた。
それから食房に戻ると、まもなくして宗加が二品目の料理を運んできた。
「芋と扇貝の煮です」
よく洗った皮つきの馬鈴薯を、竹串がすっと通るまで柔らかく煮含めたものと、別の鍋で煮浸した扇貝である。ともに小鉢に盛られ、飾りつけに木の芽が乗せられている。
最初のコメントを投稿しよう!