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春も終わりに近付いた早暁。
調理場の隅の方丈(ほうじょう)の板間で、妙児がシノを厳然と凝視している。
土間より一段高くなった二面が壁の板間は、土間との区切りは柱のみ、という造りで、シノは朝餉の支度にいそしむ同僚らの不満な視線を背中に感じつつ、肩を強ばらせた。
端坐したシノの膝の前には紅木の茶托が置かれている。脚付き膳より一回り小さい矩形(くけい)のもので、そこには磁器の茶壺(急須)、蓋椀(がいわん:蓋つきの湯飲み)、茶海(水差し)が乗せられている。
シノは、いちいち妙児の顔色を窺いつつ茶を淹れると、磁器の皿に蓋椀を乗せ、それを妙児の膝の前に押し進めた。
「ど、どうぞ。青茶に属する鉄観音茶です」
声に自信がない。
まだ緊張の抜けぬ顔である。
妙児は両の手で皿ごと蓋椀を持ち上げた。
白磁器の椀は広口。蓋は茶杯の内側におさまる物だ。
蓋を取ると、甘く清んだ香りが湯気とともに立ちのぼった。
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