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「悪くはないでしょう」
茶を一口含んだのち、妙児の口から出た言葉である。
妙児はおおよそ人を誉めない。欠点ばかり指摘し、これくらいは出来て当然と見ると口もひらかない。
これまでの茶芸修練から、そんな妙児の性質を直感的に感じていたシノは、今の言葉こそ賛辞であると思い、相好をくずした。
しかし、シノはまだ茶師にはほど遠い。
緑茶、黄茶、紅茶、青茶、黒茶はあらかた適した抽出が行えるようになってきたが、茶葉によって手順を変えねばならぬ白茶は不得手らしく、たびたび同じ間違いを繰り返す。
「明日は白茶です」
妙児が茶を喫し終えてのち言うと、シノの顔が僅かに曇った。
「茶具を片付けて仕事に戻りなさい」
「分かりました」
シノが低頭したとき、調理場の下女らが食膳を運び始めた。
そろそろ部屋付きが娼家の掃除を終えて、朝餉を食しにやって来る。
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