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「シノが茶師に向いていると思ったからです」
妙児は冷然と答えた。
それ以上、述べるつもりはない。
そんな妙児の心を読みとった下女らは、しょうことなしに作業を再開しようとしたが、しかし宗加はしぶとく「どこが茶師に向いているのですか」と身を乗り出した。
妙児は引き際を心得ぬ輩が嫌いである。
配慮を欠く者は、己中心な節が目にとまる。
妙児が宗加を疎ましく感じたのも束の間、しきりに杓子で竈を叩く音が調理場に響き渡った。
「茶師の向き不向きだと? お前らはそんなことも分からんのか」
音を鳴らしたのは料理長である。
料理長は大声を発しつつ、杓子で下女らを叩く素振りを見せた。
この挙動のせわしさが、長という威風を払わぬのだ。下女に侮られるのも頷ける。
「では料理長は分かるのですか」
誰かが問うた。
「当たり前だろう」
料理長は目を剥き、胸を張っている。
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