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中央に盛られた天豆には、ひたるくらいの煮汁が注がれており、飾りつけに八角と赤唐辛子が添えられている。
ほのかな大茴香(だいういきょう)の香りが、食房を満たした。
「この調理法はお前が考えたの?」
箸を置いた秋月が宗加に問うた。
声に感嘆の響きがあった。
「はい。天豆には独特の青くささがありますので、八角で香気をつけ唐辛子の辛みで風味を出しました」
自負のひそんだ宗加の顔に、讃嘆をいただくのも思い通りだという余裕の笑みが浮かんでいる。
廊下側の壁際で控えていた妙児は、自らの隣に目をやった。
妙児の隣には、顔色ひとつ変えずに上級女らの試食風景をおぼろに見つめている蓮吾が立ち、その隣には料理長が立っている。
料理長は「いかにも宗加らしい工夫だな」と腕を組み、調理場の下女が「試食されたい方はどうぞ」と、余り物を大鉢に入れて運んでくると、娼妓に混じって真っ先にそれを試食した。
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