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調理場の朝は早い。
交代制で取りかかる朝餉の支度は、少人数の作業であるため、一日のうちで最もせわしいときかもしれない。
妙児は調理場の喧騒が落ち着きはじめたのを見計らって、料理長を訪ねた。
「料理長。もうお加減はよいのですか」
「へえ。長いこと休んでしまい申し訳ない。これから精を出して働きますよって」
板間の上がり口に腰掛け、昼餉の献立表をあらためていた料理長は、一度立ち上がって礼をすると、着座を促す妙児の手振りに従い、また腰をおろした。
「病み上がりでしょう。無理はなさらぬように」
妙児はその隣に腰をおろすと、調理場全体を見回した。
下女らは食房に膳を運びはじめており、調理場は手薄となっている。一人とて妙児らを気にしている者は居ない。
今ならば訊ける。
「料理長。宗加のことですが――」
思いきって口を開いたが、いざとなると言いよどんだ。
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