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「おはよう、葵」
リビングに行くと、美空姉さんが食器を並べていた。
味噌汁のいい匂いが空腹の胃袋を刺激して食欲をそそられてくる。
「美空姉さん、おはよう。今日も美味しそうだね」
僕がそう言うと、美空姉さんはほんのりと頬を赤く染めて──
「うん……愛情いっぱい込めて作ったんだよ?」
そう言って優しく微笑む。
御手洗 美空(みたらい みそら)……僕の姉で高校三年生になる。
中学二年生の僕を、僕がまだ物心つく前から一人で世話をしてくれ面倒を見てくれた。
親は僕が物心つく前から行方不明になっている。
美空姉さんが言うには、僕たちを捨てたと言うのだけど、本当かどうかは解らない。
二人の顔を覚えてない僕には、本当にいるのか、わからないし、美空姉さんが僕にとっての親代わりでもあるので、両親については正直、どうでも良かった。
僕の家族は美空姉さんだけだ。
「ごちそうさま」
朝食を平らげ、二人で学校に向かう。
……と、言っても僕は中学、美空姉さんは高校だから途中までなんだけどね。
「美空姉さん、今日は僕、買い物して帰るから」
デカデカとタイムセールの見出しの文字が自己主張するチラシを見せる。
「私も一緒に行っていい?」
「いいよ美空姉さんは学校から逆方向だし、買い物くらい僕に任せてよ」
僕がそう言うと、美空姉さんは微笑みながら僕の頭を撫でた。
「……子供じゃないんだから」
「ふふ、ゴメンね?」
申し訳なさそうに笑いながらも、僕の頭を撫でる手の動きを止めてくれない。
「が…学校!遅刻するから!」
周りの視線もあり、羞恥心から耐えきれなくなった僕は逃げるように学校に向かって走った。
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