第一章 「ゼロ」

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ゲームをしようとしたがどうもやる気が起きない。 エリナの言っていた言葉では言い表せない“嫌な感じ”が気になる。 ズボンのポケットからタッチ画面式の携帯電話を取り出し、ある人物に電話を掛ける。 「もしもし。」 「あっもしもし。久しぶりだねアルフレッド。」 「1年ぶりにその声を聞いたな。」 電話から聞こえてくる声は中年男性のような低い声だ。 “アルフレッド・タビス”。 格闘技を専門的に教えている人物。 過去に世界チャンピオンになったこともある凄腕だ。 実は幼い頃からジュリウスは彼の元で修業し、鍛えていた。 しかし、ポリエスに引っ越すと同時に修業に行かなくなったのだ。 「で…一体何の用だ?」 「また鍛えてほしい。」 それを聞いた瞬間、アルフレッドが鼻で笑う。 嬉しいのかそれとも馬鹿にしているのかは分からないが。 「いいだろう…。しかし、一週間に一回だけだ。」 「どうして?」 「オレの妻からもう格闘技は辞めろって言われてな。今は内緒でやっているんだ。」 一度会ったことがある。 髪が長くて凄く美人だ。それに優しい。 しかし、怒るとアルフレッドですら手に負えなくなる程凶暴になる。 「そ、そうなんだ…。」 凶暴になって彼を怒っている姿を想像して恐ろしくなる。 「まぁっ、そうゆうことだ。日にちが決まったら連絡する。」 そう言うと向こうから電話が切られる。 途中で修業を投げ出した自分に対して怒っているのだろうか。 そんなことを考えながら部屋の電気を消し、ベッドに入る。      * ― 気がついたら夢の世界にいた。 しかし、夢は“悪夢”だった。 自分の体が巨大な手に握られ、そのまま暗闇に引きずり込まれていく夢。 あまりの怖さに目が覚める。 変な汗が流れている。Tシャツも濡れている。 枕の隣に置いてある目覚まし時計で時間を確認する。 夜中の1時だ。 深いため息を吐くとベッドから降り、水を飲みに台所に行こうとする。 その時、外から何かを感じた。 不思議に思いながらカーテンを少し開け、隙間から外を見つめる。 狭い路地に入っていく三人組の男を見つける。 「こんな時間に…。」 完全に怪しい。 真夜中にあんな狭い路地に入っていくなんて…。 ジュリウスは玄関に向かう。 誰にもバレないようにゆっくりとドアを開け、外に出る。 やはり夜になると外は冷える。
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