第一章 「ゼロ」

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「もしかしてオレは天才だって言おうとしてた~?」 自分の言おうとしていた台詞を当てられ、恥ずかしくなる。 狙い通りのぬいぐるみが取れていたらその台詞は物凄くキマっていたのに。 ぬいぐるみを動かすことですらできないとは…。 自分の情けなさに可愛らしいぬいぐるみの前で肩を落とし、ブルーな気持ちに陥る。 しかし、ここで諦める訳にはいかないとまた財布から200ギルを払う。 だが、結果は同じ。 また200ギルを払う。 こんなことが2時間以上続く。      * ― 「これが最後か…。」 遂にジュリウスの財布の残金が200ギルとなる。 UFOキャッチャーにエリナの5,000ギルを上回る8,000ギルを使ってしまった。 この8,000ギルは今日発売のゲーム「カンタムフルブースト」を購入する為のお金だった。 それをぬいぐるみに使ってしまうことになるとは…。 手を震わせながら200ギルを入れる。 だが、合計で40回チャレンジしているジュリウスは一味違う。 全てのパターンを試したジュリウスは頭の中で戦略を練る。 (一番クレーンが引っ掛かるのは……そこだ!!) 勢いよくオッケーボタンを叩く。 クレーンがゆっくり黒いブルドックのぬいぐるみ目掛けて降りてくる。 次は完璧にクレーンが頭を掴む。 (やはりな…そのデカイ頭が弱点だったか。) 今までビクともしていなかったぬいぐるみが持ち上がる。 エリナも驚き、目を丸くしてそれを見つめる。 落ちることなくゆっくりと穴に向かってクレーンが動く。 遂に取ったと確信した瞬間、後ろを通る二人組の一人とぶつかり、その反動でUFOキャッチャーにぶつかる。 その反動でクレーンが少し揺れ、ぬいぐるみが落下する。 「なっ!?」 ぬいぐるみは穴に落ちることはなかった。 ジュリウスはあまりのショックで体から力が抜けたように床に膝をつき、肩を落とす。 それをぶつかったチャラい男二人組が不思議そうに見つめる。 そのままゲームセンターを立ち去ろうとした瞬間。 「待てェ!」 二人組が揃って振り返る。 「はぁ?」 「何か用?」 二人組の男が鋭い目付きでジュリウスを見る。 さらに一人が首の骨を鳴らし、威嚇している。 「ぶつかったことなら謝るけど~?」 チャラい男が小馬鹿にした口調で言う。 ゆっくりと立ち上がり、小さな声で呟く。
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