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「まずは落ち着くことが大事だ。1+1=2……」
そんな単純なことをぶつぶつと念仏のように口ずさむ翼だったが、不意に鳴った茂みを掻き分け、近づく存在に気づかなかった。
「そう言えば俺、死んだんだよな?」
学ランを着ていることに自分の身体を触り、感覚を確かめて頷く。
「生きてる……?」
翼は自分の頭に生暖かい液体が垂れたことに仰いだ。
さっきまで晴れきっていた青空だったが、翼の眼前には頭を丸かじり出来るほど大きく開かれた口が、決めての鋭く尖った牙の存在にフリーズした。
「(これも、ミトロンが裏で糸引いてんだよな?)」
「ウガァ~!!」
「うわぁ~!!」
威嚇する獣に負けず劣らず、翼も大声を張り上げて距離をとった。
「何だこいつ? キモッ!!」
顔は熊のように毛で覆われ、出会った瞬間に卒倒、もしくは人生の終わりを感じる勢いだが、そのしたの姿に目が飛び出そうになった。
黄緑色の雨蛙のような身体。顔のように毛で覆われておらずつるりとしているが、かなりの筋肉質でゴツゴツとしている。
「この世界終わってるだろ!」
救う要素はこの生き物でないだろうかと内心叫びつつ、背を向けて駆け出そうとする。
「もう少し辛抱してほしい」
翼の横を切るように走る銀の姿に驚きの色を隠せず、後ろの方で地響きかのような衝撃音に勢いよく振り返った。
そこには奇妙な身体と顔を持っていた珍獣は横たわり、その上には私が倒したとアピールする銀が佇んでいた。
「銀……だよな?」
「……」
確認のため指差す翼に、無言のまま歩みを進める銀。
鼻と鼻とがぶつかり合う距離で銀は見上げて数秒見つめあい、顔を離した。
「翼だな?」
「お、おう」
思わぬ出来事に頭が追い付いておらず、追い討ちをかける銀との顔の距離の近さに若干上擦った返事を返した。
再び珍獣の元に戻る銀の背を見守る翼に、更なるショッキングな光景が繰り広げられる。
珍獣の右手首を掴み、肩から引き剥がした。
小柄な身体にどこからそんな力が? と目を見開いて大きくする翼は、次々と身体の接続部分から左腕、両足を引き剥がす光景を目にした。
「さて、食事にしよう」
顔に付いたジェルのような緑の液体を拭い、近くの木を蹴り倒して薪にする。
一本の木の先端を尖らせ、木の板に押し付けて両手をこ擦り合わせて飄々と火を起こす。後は引き剥がした肉の塊?を木に刺し、火の回りに置く。
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