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ジリジリジリ♪
目覚まし時計の鳴り音と、カーテンの隙間からこぼれる朝の日差しが室内に広がっていた。
「うるさい……」
その部屋の住人の少年は枕で耳を塞ぎ、手探りでボタンを押してけたたましくなり響いていた目覚まし時計を止めた。
「まだ朝じゃないだろ」
ポンポンと目覚まし時計を叩きながら時刻を確認する。
「なんだかまだ8時じゃん」
少年は寝返りを打って布団にくるまり直し、朝の微睡みの余韻に浸る。
「いやいや! 8時はヤバイだろ!!」
布団を豪快の退かし、制服に身を包み、階段をかけ降りる。
「お袋も美穂(みほ)も起こしてくれてもいいだろに!」
リビングには朝食が準備されており、置き手紙も残されていることに気づいた。
『兄貴へいい加減自分で起きろ! 部活があるので先に行きます。目覚めた頃には大遅刻ww』
『父さんが心配なので出張に付き添います。美穂ちゃんの手を煩わせないよう協力して家事を分担してください。それと、何があっても電話を掛けないでください』
「お袋逹……いつまで新婚の気分でいるんだよ」
ハートマークで丸されたカレンダーを見て大きく溜め息を吐く。
結婚して14年がたった今でも仲の良い両親。ご近所でも『ラブラブな夫婦』として話題になるほど有名だった。
子供としては家のなかでもベタベタしている姿は見るに絶えず、黙殺している。
「って! 遅刻だ!」
朝食のトーストをかじり、玄関の鍵をかけてから住宅街をダッシュする。
峽(はざま)翼(つばさ)の毎朝は遅刻から始まる。
学校の教師からは呆れられ、諦められていた。
元々朝の弱い翼にとっては厳しく、妹の美穂には毎朝陸上で鍛えた足で蹴られて起こされる。
「ヤバイ、一時限目は英語の駒(こま)ちゃん先生だ。笑顔で愚痴を言われる!」
鞄を背負い直し、トーストを一気に胃袋へと押し込める。喉に煮詰まったものを胸を叩いて飲み込む。
学校までの残り一直線、交差点を曲がってラストスパートをかける。
直線といっても上り坂。
朝のHRが始まるまでの残り10分。運動能力が高く、陸上部中距離エースの美穂でも間に合うかは難しい。
一般並みの運動能力を有する翼にとっては不可能である。
無理だな。と内心諦める翼の走る速度は減速して、交差点を曲がった。
キキー!!
黒い車が翼の目掛けて猛スピードで突っ込んできた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
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