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「なら、証拠を見せてやる」
小さなおっさんが人差し指で円を描くと、翼にとっては見知った場所が写し出され、救急車にパトカーが止まっていた。
「う、嘘だろ」
翼は電柱に衝突して、フロントガラスが粉々になり無くなった黒い車。
その先に黒髪で、バッハのような寝癖の付いている自分が横たわっている姿に言葉を失った。
少女は隣にいる翼と、円の中で倒れている翼を交互に見据える。
「主が大声を出すときに頭が割れるような痛みは、その時に頭を強く打ち突けたからじゃ」
翼は側頭部に手を当て、最後に見た光景から起こりうる可能性と眼前の映像と辻褄が合致することに表情から血の気がサァーと引いた。
「主のはこっちじゃ」
翼の映像を見続けていた少女にも同じ動作で映像を見せつける。
翼はその映像を見る余裕がなく、現実を受け入れられずにいた。
「主の口数が少ないのは元々だが、これで脳をやられたんじゃな」
「話せる」
「それは、ワシの力でじゃ」
偉そうにふんぞり返る小さなおっさん。
「おっさんが言ってることを信じるとしてだ。この先どうなるんだ」
「死ぬじゃろ」
素っ気ないおっさんの言葉に返す言葉が見つからず、首を掴んでいた手を開いて解放する。
小さなおっさんは大きく咳き込み、二人を見据える。
「まぁ、何じゃ消失する寸前の魂をここに呼んだってわけじゃ」
「だから何だよ! もう死んでんだろ? 何をしろって言うんだよ」
絶望しきった翼の表情からは諦めの色が露に、少女は一言も発しようともしなかった。
「何を……その前に、ワシは神じゃ」
「今更だな」
異空間同様宙ぶらりんの翼を見て、小さなおっさんは腕を組んでニヤリと笑って見せる。
「生き返らせてやれないわけじゃない」
「……マジで」
翼は小さなおっさんを疑いの眼差しで見据え、少女も同様の眼差しで見据えた。
「主ら、神様には願ったりしないのか……」
小さなおっさんは寂しげな表情を浮かべ、二人に背中を向けた。
「神とは?」
「偉い人。主は……知らないか。知るわけないよな」
「上官以上?」
「比べる価値もないな。何でも願いを叶えられるもん」
「なら従うまで」
「君、大分変わり者だね」
何も言わずに耳を傾けていた翼は、その場でくるくる横に回転する。
少女は首をかしげ、小さなおっさんに確認を取る。
「生き返らせてくれるの?」
「当たり前」
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