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ゴリラを人間にしたような小太りで毛むくじゃらの父親の、これまた毛むくじゃらの股間にぶら下がるそれは大きさこそ徹也とさして変わらないが45年という人生経験がもはや羞恥心すら消し去ってしまっており、包茎であることすら何も気にしない様子で颯爽とガラス扉を開け、一面水色のタイル張りで湯気の立ち込める風呂場へ赤い出来物だらけの尻を揺らしながら行ってしまった。
羞恥心のかたまりである徹也はタオルで股間を隠しながらあとへ続く。
白い湯気の充満した洗い場にゴリラ以外の背中を見つけたとき、徹也は自分たち以外に客がいるなんて、と予想が外れた驚きと少々の苛立ちを感じた。
父親とは反対側の洗い場に腰掛け、泡だらけの頭を俯き加減で洗うその背中は逞しく、頭皮を擦る指先の動きに合わせて上下する肩から腕にかけては恐ろしく筋肉質だった。
横顔には今風の若者に見られる顎髭が覗いている。雰囲気から察するにまだ10代か20代。よりによって一番見られたくない世代の客がいるとは。
徹也はこわごわとゴリラの横に腰掛け、洗面器に湯を張ると一気に頭から被った。ザバーンという音の中に「お兄ちゃん」と呼ぶ女の子の声が聞こえた気がしたが、ここは男風呂だし気のせいだと思って目をつむったまま父親から石鹸を受け取った。
毛むくじゃらの身体をごしごしとタオルで磨く父親は終始無言だった。
いつもなら学校はどうだとかアイドルがどうのとか、不在がちな母親に変わって徹也を気にかけるのだが、今日に限っては外だからなのか無言を貫いている。
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