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ノリウムの硬い床を、ぱたぱたと踏み鳴らしながら目的の病室まで歩く。
ありすの従兄弟にあたる、日向の着替えがガサガサと音を立てた。紙袋を胸に抱え直す。
彼の病室番号の前に着いた。
コンコン
ノックをすると、間の抜けた返事が聞こえる。
少し重い扉を開けると退屈そうに窓を見ている様だ。顔色は元気そうだが、沢山の点滴に繋がれた男の子。
彼が日向。
「ひな、来たよ。」
彼は弱々しい中で優しい笑みを浮かべてありがとう、と言った。
今週分の着替えを棚に仕舞うとぽつりと日向が話した。
「今月もまた入院だって。」
もうすぐ入院して1年なのに、と少々不満そうだ。
「そっか~、残念だね。」
私もとりあえず、返事を返す。
私に着いて来た銀ノ助が小さく鳴いた。
銀ノ助は、私以外の人は姿が見えないらしく鳴いても誰も聞こえない筈だ。
しばらく暇を持て余す日向の話し相手として、何の他愛もない話を終えた。
いつも通りの出口に近いエレベーターへ乗ろうとした時。
誰か……。
誰かいませんか……。
ねぇ誰か……。
病室からでは無く、何処か地下から聞こえるその声にびっくりする。
恐らくこの声の高さだったら…。
女の人かもしれない。
まるで今にも死んでしまいそうな程 か弱い声。
「今の声…」
少し震えながら、チラッと銀ノ助をみた。
「やっぱりな…お前にも聞こえたか?」
やっぱりハスキーな声の銀髪猫にこくこくと首を縦に振った。
彼はついて来いと裏のエレベーターへと私を案内した。
少々錆の着いた年季の入ったエレベーターは頼りなくミシミシと動き始めた。
中に入ると、生臭い匂いが鼻に突く。
そしてボタンを押すまでもなく自動的に動き出した。
ポーン
鈍いチャイム音を立てて止まった場所は、薄暗い空間だった。
「ここは…?」
F-ニ
どうやら地下に来たという事か。
確か病院の地下って…
「ご名答、霊安室さ。」
死体は地下にいるんだ。
さあっと血の気が引く。
彼はからかうように一声鳴いた。
その声は静かに地下霊安室に響いた。
まるであの夢のように…
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