第6話

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母の顔と、 女の顔。 世間のシングルマザーは、 どうやって使い分けているのだろうか。 ガサガサの手を念入りにマッサージとお手入れの仕方を教えてもらって、 今はスベスベ滑らか。 自然なネイルまで施してもらって、 自分の手じゃないみたいにキレイになった。 ボディもナンチャラソルトとどこかの海藻を使ったクリームでマッサージしてもらって、 希の肌みたいにモチモチ。 お手入れだけでこんなに変わるなんて… 知らなかった。 「洋子さんからお聞きしましたよ… ドラマとか、書かれてらっしゃるんですね。 すごいです。 そんな有名な作家さんと、 お近づきになられるなんて、 光栄です。」 施術の途中で話しかけられると、 逃げ場がない。 今は… そんな誉められるような仕事、 してないから。 「今は、子育てに専念中で… ほとんど世の中に忘れられてます。」 そうだった。 はじめの頃はそう言ってもらうのが、 嬉しくて… 認められた気がして、 ちょっと鼻が高かった。 あれは、 イオリが取り直してくれたから。 だから私にも脚光が当たっただけなんだ。 私ぐらいの人はたくさんいる。 だから、 こうやって自分から消えた人間なんて、 誰も必要としないんだ。 そう想うと、 力が入る。 もう一度という気持ち、 それが正しいのか解らないけど、 海翔のために、 自分のために、 もう一度、 試したい。
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