第6話

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駆け寄りたい本当の心。 だけど、 隠れてしまう、 今の私。 遙人の頭がみんなの中を通り過ぎて… ステージの上。 こんなに近くにいるのに、 もう、 知らない人… 一回り大きくなって… 体とかじゃなくて、なんと言うか、 オーラみたいな… 纏ってるものが。 眩しくて… 歪んでしまう。 もっとちゃんと心の中に刻みつけておきたいのに… こぼれてしまわないうちに、 しっかりと気持ちを取り直す。 「せんせ? すみません、せっかく来ていただいたのに、 お相手が遅くなってしまって。」 あ、やっと… 誰かと話が出来る。 俳優さんとは話をしたけど、 制作側の人とはまだ、誰とも話が出来てない。 みんなそれぞれに雑談してたりして。 「ご無沙汰しております…」 このチームとは何度も仕事をしたんだ。 いつも現場にいるから、 会う機会はめっきりなくなってはいたけど。 「届いてますよ? 先生が本格復帰なさるって。 凄く楽しみです。」 なんて、 社交辞令。 でも、悪い気はしない。 だけど、 遙人が来たということは、 顔を会わさないうちに早く帰らなきゃ… 「お久しぶりです。 先生…?」 遙人の声 カジュアルなジャケットを手繰って見上げると… あの頃と変わらない優しい微笑み どうしてそんな顔が出来るの…? 私は崩れ落ちてしまいそうなのに… 足がガタガタ震える それを気づかれないように… 何か言わなきゃ… そんな風に想ったのを、 覚えてるだけ。
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