第6話

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電話を切った後のタクシーの中。 洋子さんの声が気持ちを支えてたのに 聞こえるか聞こえないかほどのAMラジオの音が 余計に気持ちを落ち込ませてしまう。 タクシーの中で泣くわけには行かないな… 寂しすぎる。 早く家について、 早く玄関のドアを閉めて、 鍵を閉めて… 思いっきり泣きたい。 考えてみたら… そんな風に泣いたことはなかったかも知れない。 ジワッとこぼれることはあっても、 声を上げて、 子供のように泣いてないんだ。 噛みしめた唇に歯の痕がつくほど力を入れて… ショルダーバッグの紐をぎゅって握って… やっと部屋にたどり着いた… テイッシュの箱を目の前において… 鳴き声が漏れないように音楽をかける。 音楽は… 《告白》 今の私、ぴったり。 あなたに届かない芝居 もうすっかり幕は上がってるんだけど。 自分で描いた脚本 だから、 誰のせいでもない。 遙人の優しい唇を想い出しては… 虚しさにさまよう あの海の中で差し伸べてくれた腕が… 今でも私を掴まえてる 遙人の腕の中で踊る私を想い出しては… あの時が一番幸せだったと感じ もう二度と、 あの幸せには届かないと 言い聞かせる…
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