第1話

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 雲ひとつない青空の下、少年と少女が向かい合っている。    少年は目にかかった黒の髪を横にながし、少女は涙をぬぐう。 「ここまで……ありがとう」 「そんな……」 「いいえ、どんなに感謝しても足りません。あなたは私たちを救ってくれたのですから」    そこまで言うと少女は再び涙を流した。 「…………」 「すい、ません……」    すると少年を光が包んだ。 「もう、お別れのようだ」    少年が言う。 「は……い」    少女が泣きながら言う。 「大丈夫」    少年の手が少女の頭をなでる。 「きっと、いつかまた会いに来るから。それまでしばらくのお別れさ」    少女は泣きながら首を縦に振る。 「じゃあな」 「まって! あなたの、あなたの本当の名前を」    少年は消える寸前で少女に言った。 「俺の名前はキセキ。この世界の勇者さッ」    そして少年は少女の目の前から消えた。 「本当にありがとう。キセキ」  彼女の手の中には指輪が握られていた――――。     これは夢だろうか。    目の前に広がっているのは俺が先ほどまでいた狭い自分の部屋ではなく、広大な草原。  上を見ると白い天井ではなく、雲ひとつない青空。  その青空に鳥にしては大きな黒い物体が飛んでいる。  俺の足元にはアニメとかで見たことがある魔法陣と呼ばれているヤツが書かれている。  この状況からみて俺は召喚された、という設定の夢だろうか。   「そこの黒髪の人!」  突然俺の後ろのほうから声がした。    振り返るとそこには黒いコートを着た赤髪の少女がいた。    黒いコートを着ているため体は分からないが、顔立ちはすごく整っていて、太陽のように赤い髪を腰の部分まで伸ばしている。 「だ、だれですか?」  すると赤髪の美少女はなぜか自慢そうにこう言った。 「私の名前はリリス! この世界の魔族の頂点、第34代目魔王よッ!」  …………はい?    
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