第5話 視線は #4

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「予防線を張ってる。 レイには愛する人が居るって、言い聞かせてる。 私自身に。 義両親はクリスマスを盛大にお祝いしてたけど、 元々は違う宗教だったんだ。 だから、心から祝えない。 母親はどう思うかって考えたらな。 静かに死んだ母親を思う日にしてるんだ。 義両親から独立してから。 レイは信仰が有るのかな?」 信仰か… よく解らないけど。 「日本では、仏教が主流です。 人が亡くなったら、お経を唱えてもらって送ります。 でも、仏教徒という感覚で居るわけでは有りません。 クリスマスはお祝いしますし、 その何日か後のお正月には神社にお詣りに行くのです。 私にもよく解りません。 意識して、どう… ってことが無かったですから。」 難しい… 私が考えなさ過ぎなのかな。 そうか。良かった。 アーレフが少し笑った。 「世界では宗教によってトラブルが起きてるからね。 そんなことに巻き込まれて命を落とす人も少なくない。 幸せになりたいから信仰するのに… 何かが違ってるんだ。 それを解って欲しい。 元々は、私はそういう意識で事業を始めた。 力を付ければ、 何か方法が見つかるかもしれないと思ってね。 だけど、 大きくなればなるほど、 私の意志だけでは動けなくなってるのも事実だ。 人生と同じだ。 思うように行かないのは。」 少し諦めにも似た笑い。 乾いたような微笑みだった。 こんな… なにもかも手に入れているような人でも、 思い通りにならないことが有るんだって、 私なんかが思うように生きられないのは、 ごく普通のことなんだって、 改めて、思い知らされた。
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