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男は暫く竃の前にて竹筒を握っていたが、炎の調子が落ち着くと裏の氷室から一つ桶を引っ張ってくる。 持ってくるのではなく、引っ張ってくる。 木製の台車に乗せられた桶は、おおよそ成人一人が中に入って蓋をできる大きさ。 宛ら棺桶、或いは風呂桶にも見える体のそれには、つるりとした艶やかな曲線美が満載されている。 男は、まるで想い人の柔肌にでも触れるかの如く繊細な手つきでそれを掬い上げる。 筋ばった、けれど職人のしなやかさを併せ持つ手の中には水をしっかり含んで膨らんだ豆の粒。 前日に仕込みを済ませた、それは男のこだわりの一品。 契約農家から直接仕入れる『尾張むすめ』だ。
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