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豆腐屋の朝は早い。 まだ夜も明けぬ寅の刻である。 暗がりだった土間に明かりが灯ると、静寂の空間にカチリと小さく音が響いた。 その乾いた音のした場所――広い土間の片隅に屈む男は、手にした点火機具の先を眼前の干し藁へと突っ込む。 筒状になった機具の先端から、こんもりした枯れ色へ燃え移る青白い炎。 炎はチリチリと微かに火花を散らし、軈て黒く硬い木炭へその熱を移す。 男は『着火男』を竹筒へと持ち替えると、頬をぷうと膨らませそのまま一息吐き出した。 踊る竃の火が一瞬輝きを増し、パチリと弾け飛ぶ。
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