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「ドロボーッ」
まだ肌寒い2月の京の街に魚屋の悲痛な叫びが木霊する。
[ばぁか 美人に鼻の下を伸ばしてボケッとしてる己が悪いんじゃ]
魚屋の軒先から干物を掠めとり、路地裏に駆け込もうとした瞬間、むんずと首根っこを捕まれ足が地面から離れた。
「また、お前か…」
呆れた様に溜め息を付きながらせっかく掠めた干物を俺から取り上げたこの男は、最近 京にやって来た連中の一人だ。
[こらぁぁっ 田舎モンがぁっ 干物返せやぁ]
首根っこを捕まれながらも必死で抵抗するが 手も足も奴には届かない。
「歳、可哀想じゃないか… コイツだって、この寒空じゃ 食べものも少くて困ってるんだよ」
男はそう言って、歳と呼ばれた男の手から俺を引き取ると大きな腕の中に抱えて、魚屋に干物の代金を払った。
「もう こんな事してはイケないよ? お腹が空いたら 壬生の屯所に来なさい。
君の食事位なら いつでも用意してあげるからね」
男は、俺を解放すると先程の干物を差し出した。
「近藤さん…コイツらに言って聞かせたってわかりゃしねえよ」
俺は、干物を受けとると、歳と呼ばれた男に蹴りをカマシて路地裏に駆け込んだ。
背後からは あの男の罵声が聞こえるが無視を決め込む。
[ば~か…お前なんかだいっ嫌いだ]
フンッと鼻を鳴らして俺は住みかに急いだ。
流石に、2月の寒さは応える…
近藤さんって言ったか?
あの人…
暖かかったなぁ…
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