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「リリア」
低く甘い呼びかけに、少女が振り向く。
「セバス……もう、時間ですの?」
春の空を思わせる水色の髪が、潮風にたなびく。
顔にかかったひと房の髪を手で払い、リリアは瞳を閉じたまま、セバスの下へと歩み寄った。
「行こう。夜明けが近い」
そう言って差し出されたセバスの手に、リリアの手が重なる。
「残念ですわ。もう少し風にあたっていたかったのに」
リリアの脳裏にあの日の出来事がよみがえる。
緋色の炎、紅色の血――そして、赤色の髪。
リリアが生まれて初めて目にしたのは、深紅に彩られた世界だった。
「お前はおいしそうだわ」
たった一言で、リリアの世界は一変したのだ。
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