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燃え盛る本能寺。対峙するのは刀傷の付いた鎧を着た頭の薄い男と、膝を折ってもなお眼の闘志を失わない壮年の男だった。
「信長公。貴方から受けた御恩の数々、決して忘れはしません」
血塗れの男――織田信長に刃を向けた明智光秀は、背筋が凍るほど冷徹な瞳だった。しかしその口から出る感謝の言葉も、嘘の匂いはしなかった。
ただ燃ゆる煙が、男達の真意を包み隠す。一つだけ明白なのは、信長の受けた傷は致命傷である事だけだった。
「覚悟など、とうの昔に出来ておる。今更へつらいなどいらぬわ」
「いえ、私は貴方を心より敬愛しておりました。貴方が、あの時に私を――いえ、これ以上は、それこそ無駄話ですね」
光秀は刀を振り上げ、信長の首をしばし眺める。改めて見るとそれは皺が寄り、信長が確かに歳を重ねていたのだと示していた。
「……――御免!!」
ここで一つの時代が幕を閉じ、乱世は更に火の粉を広げる。長い争いが産声を上げる――はずだった。しかしそれは、突然二人を包む眩い光に阻まれた。
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