Vol.03

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  「……来週は、いらっしゃいますか?」 少し長めの沈黙の後、降ってきた言葉はソレ。 「え?」 「うち、常連さんのリクエストとかも受け付けてるんです」 言う声は、……今迄聞いた事があった訳やないし、今日、初めてマトモに話した位やけど、 何かを耐える様な、声。 「今迄、お話させて頂いた事も無かったんですけど、……リクエスト頂ければ、ご用意しますよ」 「…………ほな、カレー」 「はい。かしこまりました」 言う笑顔は、痛々しくて。 せやけど。 俺、もう何かが欠落してるんかも。 どうしても思ってまう。 演技してるんやないか?って 「……冷める前に、召し上がって下さい」 「ん」 小さく息を吐き出して、ビーフシチューを一掬い。 口に含めば、広がる味は、 「うまい」 やっぱ、俺好み。 正直、おかんの料理よりも、確実に俺好み。 この店と、味の好みが同じなんやろうなぁ。きっと。 「有難うございます」 ほんま。 この店に来辛くなるんだけは、勘弁して欲しい。 「別に、アンタの事が嫌いな訳や、無いで」 「……はい」 「ただ、……俺、基本、オンナは信用出来ないねん」 時々、本気で思う。 実は、オンナが嫌いなんやないか? って。 快楽さえ得られれば、その存在の必要性すら感じひん時が、ある。 可愛い。だけやったら、犬や猫の方が、よっぽど可愛いしな。 「……仲、良いですよね?」 「は?」 「彼氏、さん。と」 …………、彼氏?? っ、あぁ!! せやった、俺、彼氏が居てる事になってんやった。 今日は、隆也が居てへんし、吹雪の所為で忘れてた。 「まぁ、付き合いも長いしなぁ」 「そー、なんですか」 「俺、こう見えて、案外、一途やねん」 「はい」 まぁ、最後に誰かに一途やったんが、いつかも忘れたけどな。 「……今迄通り、」 「ん?」 「お客様と店員。ですから、」 この先、誰かに一途になる日が来る自信も無いねんけど。 「安心して、来店して下さいね?」 この子、俺の何が好きやったんやろ? 仮に、この見てくれだけやない何かを並べてくれるんやったら、何か変わるんやろか?俺。 「来週、楽しみにしてるわ」 「頑張ります」 変わらんやろな。 そう簡単に変われる程、単純に出来てない。 培ってきたモンを覆すんは、えらい勇気が要る。 俺には、無いなぁ。  
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