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半ば逃げ込んだトイレ。
鏡に映る自分のカオに、ため息一つ。
ホンマ、よぉオンナが釣れるカオやな。
こぉゆーんをモテる。言うんやろうか?
ただ、この見てくれに寄ってくるだけやのに??
夜中の街灯に寄ってくる蛾ぁみたいなモンやな。
「っ、」
「あ」
仕方なく戻ろうとトイレから出れば、先刻、一番、俺にまとわりついてたヤツが居て、
「あの、」
「……何?」
駆け寄ってくる。
「あの、私、」
あー。
この空気、知ってるわ。
勘弁してや。
「好きです。付き合って下さい」
やっぱ、なぁ。
会って、小一時間経たん内から、よぉ好きや言えるよな?
「……悪いけど。俺、今日は数合わせで来ただけなんだ。恋人も居るし」
「え?」
「ごめん」
言う俺に、泣きそうな表情をわざわざ作って、それから去っていく。
そこは、逆に笑顔の方がグッとクる気ぃするんやけど。まぁ、どっちにしろ演技やから、どうにもならんか。あの子は。
……きっと、肉じゃがもめんつゆとか使うタイプやで?アレ。
「断り方、変えたの?」
不意に、耳元で甘ったるい声。
「っ、な、」
「ひっさしぶりじゃない?蓮」
「……彩、華」
慣れ親しんだ、甘ったるい香水。
「どうしたの?いつもの、彼氏居るから。は?」
「……職場の連中と来てる合コンでは使えないんだよ。ソレ」
まぁ、何度か美味しく頂かせて貰った、相手。
「へぇ。でも、本当、最近見なかったけど、どうしたの?」
「……別に」
いつも同じ店な訳やない。
やけど、馴染みのヤツの話は耳に届いたりもする。
「つまんなそうなカオしてるけど。好みのオンナは居なかった訳?今日」
「だったら?」
「久々に相手してあげよっか?」
「相手、ねぇ?」
面倒な相手ではない。
装ってるんか、ホンマにそうなんかは知らんけど。
相性も、悪くはない相手。
最近、清らかに生きてた。
まぁ、据え膳くわぬは男の恥。っちゅう諺もある訳やし?
「なぁに?私でも不満なんだ」
「そーゆー訳じゃないけど、」
絡まって来る腕。
密着する身体。
重ねられた唇。
ここまでされて断るんも、まぁ、相手に恥をかかす事にもなると思うしなぁ。
思って、その腰に腕を回した瞬間、
カタン。
と、小さな物音。
いつ、誰に見られてもおかしない場所。
せやけど、まさか、その誰かが、
「っ、朱音」
よりにもよって、朱音って!!
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