Vol.08

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  うそつき。 なんて、責められる立場じゃ、無い。 私は、蓮さんとは無関係な人間。 店員とお客様。 勝手に好きになって、告白して、フラれて。 無かった事にして欲しいと言われた。 蓮さんが、どんな嘘で私を振ろうと、誰とどんな事をしてようと、 私には、関係ない。 勝手に傷ついて、よく責める言葉があったものだと思う。 勘違いしてた。 笑顔を見せてくれるから、会話をしてくれるから。 私は店員で、蓮さんはお客様なのに。 私と蓮さんは、他人だ。 嘘をついて責めたり、責められたりする様な、関係では、無い。 『もしもし?』 「……店長、」 『ん?朱音か?どした』 間違ってた。私が。 「ごめんなさい。少しの間、金曜日はお休みします」 『……そっか。うん、解った』 「ごめん。奏多くん」 『はは。うん。大丈夫だよ。皇をこき使っとく』 中途半端に、失恋をこじらせた。 一度、フラれてる。 無かった事にして欲しいとまで言われてる。 だから、無かった事にする。 もう、会わない。 きっと、蓮さんも店には来なくなる。 ほら?これで接点を失う。 会えなければ、いつかはこの恋心は滲む様に消える。 消えて、無かった事になる迄、少しだけ時間が必要なだけ。 たかが失恋。 別に、何も変わらない。 どれだけココロが傷ついていようが、……何も変わらない。 泣いて世界が変わる程、人生は甘くない。 * * * 「昨日、来てたぞ?」 土曜のお昼。 仕込中の私に、店長から降ってきた言葉。 誰が? なんて、聞かなくても解ってる。 「ハンバーグ。作っておいてくれました?」 「作ったよ。まぁ、微妙だったみたいだけど」 言われた言葉に、思わず店長を見上げる。 「え?」 「おれのレシピなんだけどな?お前の味が好きだったんだろうな」 「……何か違いますかね?」 「さぁ?違うんだろう?アイツには」 まぁ、確かに店長も私も目分量で作ってるから、全く同じ味。では無いんだろうけど。 でも、材料も手順も同じだから、そんなに違わない筈、なんだけど。 「コーヒーも顔顰めて飲んでたしな」 「……それこそ、そんなに違わなくないですか?」 「お前が作るコーヒーは、少しだけ薄いんだと。おれのより」 あぁ。 私が、濃いの嫌いだから。無意識に薄くしてたの、かな? 「きっと、味の好みが同じなんだろうな?朱音とアイツ」 味の好み、か。  
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