Vol.08

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  美味しそうに食べてくれて、その時見せてくれる笑顔が好きだった。 黙っている時はどこか尖っている雰囲気が、笑顔になった瞬間に消える。 あの、明るい笑顔が、好きだった。 「やめんの?」 「え?」 「アイツの事」 好き、だった。 「……やめます」 「そっか」 「一度、フラれてますから。もう、中途半端はやめます」 過去にしなければならない。 大丈夫。 会わなければ、薄れていく。 「そっか」 頭を軽く撫でて、店長が笑う。 「まぁ、一人常連減るかもしれない分、新しい常連獲得してくれよ?看板娘」 「……いつから看板娘になったんですか?私」 「最初から。だろ?」 「思ってないでしょ?」 「思ってるよ。朱音は美人だから、な。何気に朱音目当ての客、居るんだぞ?」 嘘ばっかり。 「あ、信じてないだろ?本当だからな」 「いいですよ。気を遣わなくて」 「遣ってないって。朱音は、本当に美人だよ」 ……気を、遣わせてるなぁ。完璧に。 そんなに、カオに出てるんだろうか? 「ありがとうございます」 自然と視線が行くのは、いつも蓮さんが座ってた席。 金曜日を避けても、ココは蓮さんとの思い出ばかり。 いっそ、しばらくお店の手伝いを休んだ方が良かったのかも。 何作っても、蓮さん思い出すし。 何これ?重症?? 「あ、朱音」 「はい?」 「牛乳きれた」 「……買ってきます」 とりあえず。 これ以上、気を遣わせる訳にもいかないし、切り替えなきゃ。 いくら、手伝いとはいえ、仕事なんだから。 「っ!?」 近所のコンビニ。 店内に入ろうとして、視界に入ったその姿に、慌てて引き返す。 何で?? や、違う。 確かに、この辺りに住んでるのは知ってるけど。 どうして、会わなくていい時にばかり、会っちゃうの?? 普段は店でしか会わないのに。 って言うか、蓮さんの最寄のコンビニってココなの?? ちょっと待って。思ってた以上に、近所に住んでるの!? レジを終えて出て来た姿を、壁に隠れて目で追う。 歩いて去っていく辺り、やっぱり、この近所に住んでるって事? 勘弁してよぉ。 忘れなきゃならない人なんだから。 もう、会う事は避けたいんだってば。 あぁ、もうっ!! 腹立つなぁ。 それでも、会いたくない筈なのに、その姿を見ただけで、 嫌になる程に、好きを思い知る。  
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