Vol.08

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  何とか、声を絞り出して、そっと視線を移動して。 由良さん以外の姿が無い事に、安堵。 「蓮ちゃんなら、居てないよ?」 「っ、」 言われた言葉に、反射的に俯いてしまう。 どういう反応をすればいいのか、解らない。 「……ごめんなぁ」 「え?」 「騙すつもりは無かってんけど、……言った手前、今更訂正も出来なくて」 あ。 そっか、あの嘘には由良さんも絡んでるんだ。 あぁ、でも、それで妙に応援してくれてたのか。 「いえ。別に、蓮さんも由良さんも、悪くないですよ」 「…………」 「どんな言葉で振るのも、蓮さんの自由です。あの時、私の事解ってなかったみたいですし」 おにぎりを二つ、手に取ってレジに向かう。 由良さんは当たり前に後ろをついてきて、私との会話を続ける。 「せやけど。騙してた訳やから、」 「……騙されて責められる立場じゃないですもん。私」 「朱音ちゃん、」 手には既にビニール袋がぶら下がっているから、私より先に買い物は済ませているらしい。 「それより。由良さんも、この辺に住んでるんですか?」 「え?あ、いや。オレは蓮ちゃんの家からの、帰り」 ……蓮さんの家からの、帰り? 思わず時計を確認する。 今帰りって、普段、店に来る時間から考えると、仕事終わってすぐ行ってすぐ帰って来てる、感じ? 「蓮ちゃん、頭痛がひどくて早退したんやて。で、薬無いっちゅうから、鎮痛剤届けてきたとこ」 「……、頭痛」 「まぁ、薬も飲んだし、大丈夫やと思うで」 早退する程って、大丈夫なのかな? 頭痛って、意外にバカに出来ないって言うし。 「朱音ちゃんに嫌われたんが、結構、ショックやったみたいやで?」 …………。 「はい??」 「店にも居てないから。……凹んでる」 「……、そんな、別に嫌ってる訳じゃ」 「ほな、何で?」 また、私のカオを覗き込む。 辺りは少し暗さを増して、街頭がチラチラと灯り始める。 「あんまり会ったり話したりすると、……好きが消えないから」 「……」 「ちゃんと、シッカリ失恋しないと、……ちょっと、会うのは辛いんです」 言って、笑ったつもりなのに、私を見る由良さんのカオは困った様に歪む。 「由良さ、ん?」 ふと、由良さんの腕が私を引き寄せて。 抱きしめられる訳じゃない。でも、ソレに近い距離に包まれた。 [Next]
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