Vol.03

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  吹雪の日は、外に出るな。 北海道民には常識らしいソレ。 流石に、北海道に住み始めて五年も経てば、ソレは身に染みる。 ちゅうか、……歩きながら溺れんねん。吹雪って。 「いらっしゃいま、せっ、」 やけど。 吹雪くらいで、一週間に一度の楽しみを奪われるんも我慢ならん。 「……どーも」 「っ、だ、大丈夫、ですか??」 まぁ、それ以前に、職場からの帰り道やし。ココ。 家に真っ直ぐ帰るんと、ココでメシ食ってから帰るんとで、そこまで何が変わる訳やないからな。 「おー」 「えっと、ちょっと待ってて下さいね」 吹雪の所為か、珍しく客は一人も居らん。 「これ、使って下さい」 「……えぇよ。別に」 持ってきたタオルをやんわりと返せば、少し困った顔。 えっと、……アカネ、やっけ?名前。 若干の気まずさを覚悟してたんやけど、雪まみれの俺に、それどこや無いみたいやな。この子。 「使って下さい」 「…………、どーも」 半ば強引に押し付けてくるから、仕方なく受け取る。 店内に入った事で急速に水と化した雪が容赦なく衣類に染み込み始める。 吹雪の日のマフラーほど無意味なモンは無いよな。逆に冷たい。 窓から見える外は、真っ白。 確かに。 仕事や、よほどの事情が無ければ、外に出ないんが普通やんな。 「……店長さんは?」 「え?あ、……今日はお休み頂いてます」 お休み? って、アカンやろ。 こんな天気の、こんな時間に、オンナノコ一人とかアカンやん。 「……アンタ、一人?」 「こーゆー日は、お客さん来ませんから」 「俺、客」 「あ、はい。いらっしゃいませ」 変な返しに、思わず笑う。 「あ、……ご注文は?」 「あー。今日、何?」 「ビーフシチューなら、すぐご用意出来ます」 「じゃ、ソレ。と、コーヒー」 「かしこまりました」 こんな話したん、初めてやな。 まぁ、話す言う程の内容でも無いねんけど。 非常事態、みたいなモンやから、かな? あまりの吹雪に、テンションおかしなってる。 酷過ぎて、何や笑ってまう感じ。 ちゅうか、本当に真っ白やねんけど?外。 「なぁ、」 「はい!?」 「来ておいて何やけど、自分、帰った方がえぇんちゃう?外、ヒドイで?」 新しい建物や無い所為か、風でガタガタ言うてるし。 「大丈夫です。私、家、すぐ近くなんで」 「なら、えぇけど」  
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